削ぎ落とさないほうが、シンプルな態度が見えてくるということ|田中功起個展 共にいることの可能性、その試み

水戸芸術館は少し遠い、その遠さと共同作業を考えることの距離

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「共同作業」についての試みを他方向から見せる演出。

6日間の宿泊に参加した参加者と、アーティストと、アーティストの呼んだファシリテーターや映像作家のコラボレーションをもとに、アーティストの過去作品を挟みつつ鑑賞することができる、ビデオ・インスタレーション。

例えばみんなで料理を作ったり、例えば働き方について語り合ったり。

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外界と切り離されて集合した共同体と、水戸へと長い時間をかけて見に来た鑑賞者の感覚が、わずかにリンクする。私は友人のアーティストとともに宇都宮から車できた。「高校生ウィーク」というイベントで無料のカフェがあって、展示を半分見てからカフェで話し、また全部をまわってからまたカフェで討論することができて、充実した時間だった。

大きな会場内に、「アーティスト・ノート」「キュレーター・ノート」(大きな本のページのようにも見える)がガイドの様に張り出され、行われた実験の内容や状況、感想などがぽつぽつと綴られる。

空間デザインのセンスと説得力

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蛍光灯の光が空間を大きくしている。

大きな写真とそこにある現実の椅子の線が、様々な人がダイナミックに動く導線を作っている。疾走感、とどまって大きくなる線、線。観客は大きな紙(アーティストノート、キュレーターノート)と、話しながらも編集されているかたちを楽しんでいる

(平塚らいてふの本を持たせて、監視員を参加させ、鑑賞者のアクションに自由度を持たせるオノヨーコをもう少し民主主義に則ってていねいにやっている感じがする。)

「皆で作る事」と「失敗」という共感

切り取った時に「絵になる」という説得力をもたせてはいるが、あくまで「共同作業」を行う時のモヤモヤを扱っているという主題の見せ方がキャッチー。あまりに美しいので、美大生の中で流行ってしまいそう。けど、この見せ方はとても難しい。ちょっと特殊なことをやっているし、微妙な、奇妙なバランスで成り立っていることのように見える。

例えば、話し合いについて、「アーティストとしての自分の至らなさで、最後まで話し合うことができなかった」ということを綴る。また、残業によってキュレーターの育児に支障がでることを気にしたというような、「作品に関わる人々の生活」にまでも、目を向けているが、そのことでとっちらかったりしない、自由だが制御されている空間がある。

日本には共同作業が苦手な人が多いのではないか

私は、ピンとこないことを言っている人の話はほとんど聞かないし、好きな人のそばにいるように心がけている。そして、共同作業が苦手である。しかしそれは日本では一般的な意見なのではないだろうか。日本人は支え合い共同作業をするのが得意なイメージを何かしらから与えられているが、この展示を見て、モヤモヤとしている一人一人の主張に深く納得できるのは、 共同作業が必ずしも平等であるわけではなく、多くの否定をはらみ、心底疲れる仕事であるからに他ならない。しかし、私たちは民主主義の世界にいきている。

削ぎ落とさないほうが、シンプルな態度が見えてくるということ

一つの主題について言おうとして、その周辺にあるものについては大体そぎ落とした方が美しい。

しかし、この展示の場合は周辺にある瑣末で繊細な事象をきちんと入れ込んだほうが(つまり共同作業をしている様々な人々のあらゆる意見を入れ込んでいるほうが)、シンプルに問題を考えられるように作られている。これは本当にすごい発見であり、シンプルにしたほうがシンプルになるのではなく、まとめて話し合おう、しかも話し合うことで見逃すこともあるだろうというような、全く矛盾する試みを全部とにかく出し続けることで、民主主義やっている人々のありかたをトータルで問うような、シンプルな態度に見えてくる。何かを選びとったり、排除していかなければ停滞するという現実を見つめながらも、展示全体としては、左から入場すれば田中氏の全仕事についてを知りつつも今回の6日間の宿泊についてはバラバラに明かされていき、右から入場すれば6日間についてはきちんと語られてから見ていきつつ、だんだんと田中氏の代表作へと収束していく。全てが必然であるように見えてくる。しかしまた、その全てがバラバラに見えてくる。

水戸芸術館|美術|田中功起 共にいることの可能性、その試み

2016年2月20日[土]~ 2016年5月15日[日]

ちなみに、土屋紳一作品について。

カセットテープの中身についてここまで仔細に書いておいて、中身を聞かせない、強い。

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