meichang

以下は全てフィクションで、書いている時に切ったり避けたりして、お話の中から溢れてしまったものです。よかったらどうぞ(完結してません)

1.

ストーカー被害から自分の体を守るのに、こんなにお金がかかるなんて知らなかったってことを、いったい誰に言ったら良かったんだろう。私はフロントにタクシーを呼んでもらうために、9番、と隠語で伝えて(隠語で伝えなくちゃならない!)、友人の家に行った。

もっとお金もらった方がいいよ、と、友達は言った。もっとお金・・と、思っても、これは私的な関係なんだから、ただの欲深い女に見えないだろうかということに、心が参ってしまいそうだった。もらって、郵便ボックスに差出人不明の手紙が届くまえに、郵便局員でない人間がポストの前に来たら、声をかけてもらえるようなボディガードをやとわなければ。

2.

メイは、パーティーに行きたくなかった。

なぜかというと、まず第一に、無意識の間に、自分はキャバ嬢として振る舞ってしまうからだ。 第二に、行くことの意味がわからないからだ。結婚関係はもちろん、友人関係ですら、雇用関係のように、明快に、開始期間と終了期間、会話で使っても良い言葉やテーマの範囲を定めて欲しかった。ほとんど、知らない人、踏み込んだ会話をするときに、「それは旧時代的なセクシャル観ではないか」などといちいち考えてイラつくのが止められなかった。

<この人とは、役割強制的な会話は不要>などと、ひとつひとつ定めて行きたかった。同居人、なんかはわかりやすい。友人ではなくて良い、ただ、事実として同居している、そういう関係である有里とは、2年間の契約をしていた。 無駄な会話をして、自分で勝手に傷ついてしまうから、パーティーには行かないように気をつけていて、だから、有里と遅い夜の食事をしてから、気づいたら近くのマンションの地下で座ってアコースティックギターの演奏を聴くハメになったことを、本当に後悔していた。地下の談話室には、演奏者の若い男と有里の同僚たちの計5人が座っていた。東京で部屋を借りるためには、労働者2人以上が共に暮らして新住民税を下げることが習慣化していて、談話室は広めがスタンダードだった。家賃は安くても、一人で借りると税金は高いのだ。風営法でクラブやライブ会場は全て閉鎖され、ダウンロードも強く規制され、アップルミュージックは提供終了してしまっているので、ほとんどの音楽は民家の談話室に持ち寄りなのだ。終電で絶対に帰ろうね、と、有里に懇願して、我慢しながら時計を睨んでいたら、有里は「今日は泊まっていくね」と言った。メイはかなりきつい気持ちになって、有里に、「契約は?」と言った。

3.

息子の助け (それぞれの事情、事情に私は興味がある。これは単純に育児ノイローゼなのだと思う。私の、私たちの子供が生まれる以前の、あるいは生まれないとしても。)

花男が私のことをじっと見ている。ユーレイだ。いや、私の妄想だ。いや、これだけは根拠なくはっきりと言えるが、彼は私の未来の息子なのだ。 「だから、毎日基礎体温つけて、今日から期限悪くなりがちなPMSだよとか子供できる日だよとか言ったじゃん。良いから抱けよ殺すぞ!」 と、夫に叫んだ夜、花男(はなお)は私のそばにやって来た。

結婚する前からセックスレスの私は、「やっぱり子供が生まれてから結婚した方がいいんだな、昨今は」と自嘲気味に言って、PC画面だけを見つめてぼやんとした返事をする夫が「落ち着きなよメイちゃん」と言ってくるのを、何の感情も込めずに見つめた。

「子供を産んだら、助成金が出る社会だったらいいのにね」と夫が冷静に言って、私は「わかってるよ、ごめん、ごめん、PMSが…」と、泣いてしまった。ユーレイみたいな、妄想みたいな、小学校低学年の風貌の、だけど高校生くらいに見えないこともない、透けて見える男の子のいる日常は、ちょうど一ヶ月前の四月に私の肌に濡れたシャツを着てしまうように始まり、私の日常に馴染んで、私をますますノイローゼへと追い込んだ。私たち夫婦は貧困層で、結婚適齢期で、子供を産む適齢期で、でもセックスがないから、子供がほんとに産むことができるのかといったことがわからず、不妊治療の知識が私の中に溜まっていった。溜まって淀んで、きちんと会話できているはずで、二人の収入を合わせればなんとか200万にはなるが、税金に怯え、けれど切り詰めているわけではないような、のんびりした、子供は持てないレベルの、不安な日々を送っていた。家計簿をつけていれば、自由に使えるお金がいくらかあることはわかった。親にも少しだけ頼れる甘えられる環境だ。だけど、夫が、アレルギーで体が弱くて、セックスの前に疲れてしまっていて、もしかしたら私に魅力がなくて、もしかしたら日本で子供を持っても大学には行かせられないくらい、未来へのビジョンがなくて、ああ、考えるほどに、私が立ち回ってできる範囲の子づくりはもう手を尽くした。夫はもう疲れてしまって子供についてまともに話せない。それどころか、貯金用に渡したお金を使い込んでいた。私が掃除をしていたら、紙に口座番号が書いてあって、だけど支店番号が書いていなかった。ああ、振り込んでないんだ、と、なんかがっかりして、切なくなってしまった。

「お父さんにはがっかりしたよ」と、花男に向かってつぶやいた。花男の教育に際しては、お父さんの悪口を言わないほうがいいだろう。だけど、どうしても言ってしまった。生まれる前の花男は、「僕大学に行けなくても大丈夫だよ」と言った。そして、ベランダのランタナをしげしげと見つめていた。

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こんな感じでした。メイちゃんの話はもうちょっと書いてもいいかもしれない。

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